ぼくは実家で母が病院で着る浴衣に アイロンをかけていた 愛情でも愛情のなさに対する罪の意識でもない よくわからないが慣れない手つきで ぼくは必死になって皺を伸ばした 母に会った 明日にでも死にそうなへなちょこぶりだった 酸素マスクして 弱くてしゃべれないようだった ぼくは数分面会してさっさと帰った 父は泊まるそうで ぼくはただひとり この広い生きてない家で過ごす ぼくはこの家に一人なのは怖くて お風呂に入る勇気がなかなか持てない この家の空間が恐ろしいんだ 別に和風建築じゃないけど でも今日は体力があったから 入った 家の掃除も洗濯もした あり得ない変貌ぶりに笑えた ぼくが家のために何かするなんて ぼくは元来この家では 自分のために果物を剥くのさえしないわがままな性分だ 慰められたのは 庭師が庭を整えてくれていたことと きれいな半月が見れたことだ ／ナオ