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青蛙 おまえもペンキ 塗り立てか /芥川龍之介
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闇夜

今、ぼくは親戚の家がある小さなさびれた漁村に来ている


村のほとんどが、耳の遠い老人で
道をいけば、出会うその老人達に
ぼくは、「暑いですね」と自ら挨拶しておく
老人の目は、普段見慣れない人間を訝しんでいるし
老人の目は、ちょっとホラーだからだ
すると1/2の割合で
「兄ちゃんはどこの誰ぞね?」
って聞かれる

ぼくはテッペキの笑顔を顔に貼り付けて
「どこどこのだれだれの・・・・」
とフクザツな家系図を
教えられたとおりに、
暖簾に腕押し状態で説明する

 

その土地の方言をまねる事
それが笑顔の次に重大な上手い工夫だ
それだけで異邦人だと知られていても
少なくとも、どこかの都会から来たアヤシ気なヤツという
first impressionは免れる


老人が2~3人集まっていれば
その人たちの間で、伝言ゲームのような反芻が始まる

「誰?」
「どこどこの、だれだれの・・・・」
「え?どこどこ?」
「違う違う、あそこのとこのだれだれちゃんの・・・・」
みたいな繰り返し問答が繰り広げられてる間
ぼくは笑ったまま、精神は幽体離脱して時をやり過ごす

 

このアンチ双方向のRPGの村人のような世界。
決して直接的なキャッチボールが望まれない世界で
ぼくは時をやり過ごす

 

時が流れるのが異常に遅い、この片田舎で

 


100近くの老女が一人暮らししている古い家の
時計が家に一つしかない家の
テレビが3チャンネルくらいしか映らない
そんな居間の一箇所にしか時計が無いこの家の
和室の、
襖で仕切られて作られた一室で、昼寝をして


浜までの道を歩いて


浜で


防波堤で


浜から戻る道で


降り落ちてくるような満天の星屑を見上げて


流れない時をやり過ごす

 


ダーウィンの進化論を無視したような
あるいは、完全なる論拠のような、見たことも無い巨大な蚊と
戦いながら
(といってもぼくなんかは1度も吸われなかった
 若造なのに、おいしくないって知ってるんだ、彼らは
 ファストフードなんてほとんど食べないのに
 普段住む街で食われないくらいだから
 田舎のグルメな蚊が食うわけ、ないか・・・・
 あれ?でも大半は超老人だけど・・・・)

 


奇妙な事に
ここでぼくはJのことがほとんど頭に浮かんでこない
出発するその時まで
ドウセイ気分で「行ってきます」と告げたほどなのに


Jは普段のぼくの生活に欠かせない人であるという事なのかな

 


ぼくはただひたすら暁の事を考えてる
打ち寄せる波の中
歩く道すがら
近年大河ドラマに出た殿様の直筆の書を、ナンテ書いてあるのかわからないけど
眺めながら
笑顔で対応しながら
寝ながら


暁がぼくの頭の中で動いていた

 

時さえたてば、楽になるはずの
だからそれを消化することが
重要ないまのぼくに
時が流れず
無限ループのような
エッシャーのだまし絵のような
過ぎ行かない、時。
10年前も、50年前も、100年前も
変らずそこにあるような土地で
ぼくは必死でやり過ごしてる
反面
静かに暁がぼくを侵食する


普段の、エントロピーの塊みたいな雑多な生活では無視できる
静かに、ぼくの中に残る暁が
ここにくると対峙する羽目になるのか


別に
ここのところ夢中になってるJとのモウソウを
暁主体でやってるわけじゃない


Jとは別の、ここのところ気になってる人と
一緒にいる事をモウソウしていたら
途中から暁がやってきて
でも、これからという時に、暁は、恋人の元へ行くね、と
言うんだ
ぼくは涙を流して、彼よりはやく、その場から『落ちる』んだ


そういうモウソウもあったけど
もしかしたらそれが始まりだったのかもしれない
今となってはループしてるこのモウソウの起点なんて
思い出せない


暁がぼくを呼ぶんだ
暁がぼくを思い出してるんだ

 

暁も普段は恋人に夢中で楽しく過ごしてる


でもある瞬間とか
何かに触れたとき
きっとぼくを思い出してる
ぼくと同じように
何かが、心の奥底に活動を止めてる火山みたいに眠るお互いを
むりやり着火するような成分をもつ何か

 

まるで予期せず
ある神経をピンセットでいきなり摘まれたみたいに
引っ張り出される


身構える間もなく、突然に。

 

そして暁はぼくを呼ぶ
ぼくを思い出す
キチンと触れ合えなかった事を
それでも何度も触れるモウソウをしていた事を
鮮明に呼び覚まされる


ぼくの事をあれこれ考えるんだ
回想

 

―ナオ、あなたは意固地になって、
 ボクにホントウを言わなくて
 全てのタイミングを逃してしまったね―


みたいに。
僕の頭が一人で暁になって語られていくんだ

 


明日の午後、ぼくはここを立つ
明日のうちに戻って
そうすれば、ここを離れるに連れて
時は加速度的に流れ始め
いつも体感してる速度に戻るだろう


ピアスも指輪も置いてきているせいで
それらはまるで
しめ縄のように何かを鎮めているのかもしれないし
Jとぼくを結び付けてるのかもしれない


だからきっと
最後の夜だ
明日、家に戻り、風呂に浸かってリセットし
ピアスと指輪を嵌め
PCの前に座っていれば
状況がぼくを戻してくれる


戻れないときは
お茶を淹れてもらおう


あの場所は
暁も、いるのだけど
暁も、ぼくがいることを知ってるのだけれど
そこには
暗黙の了解が存在してはいるのだけど

 


J、ぼくは明日
あなたにきっと「ただいま」と言う
暁の事などおくびにも出さず
疲れた~て明るく甘えてみせて


Jは「おかえり」と迎えてくれる


Jはぼくを縛ったりしないから
行っておいでと扉を開くから
ぼくは・・・・・

 


ここにいる間、月が見えない夜でよかった
不気味に大きな月の光を浴びたら
ぼくの心の波は大きく揺れ動いてしまっただろう


たしか3日前くらいが満月だった
昼間の月は、猛暑を生み出す太陽の力と
それを遮るモノが減ったせいで
見えないのかも、しれない
あるいはぼくが、見てないのかも、しれない


流されるままのぼくに
あらゆる方向から降りかかる状況の中で
ギリギリ保てていられる、偶然なのかもしれない

 

 

月が無い
Jがいない
暁が・・・・

夜が明ける /ナオ

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